【事件名】平成13年(ワ)第13581号 損害賠償等請求事件
     平成15年(ワ)第13244号 合祀絶止等請求事件
     平成17年(ワ)第2598号 損害賠償等請求事件
【期日】 平成18年5月25日 11:30
【法廷】 7 1 0号法廷
【裁判所】地裁民事第19部(裁判長・中西茂,陪席裁判官・森冨義明,本多幸嗣
              森冨裁判官転出のため,蓮井裁判官が立会)
【主文】1 原告らの請求をいずれも案却する,
    2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

【事実及び理由の要旨】

第1 原告ら(414名)の請求の概要

   原告らは、大韓民国国籍を有している者であり、第二次世界大戦で日本に徴
  兵・徴用された本人又はその親族である。
   原告らが請求しているのは、@被告国が靖国神社に対して原告らの親族を戦
  没者として通知したことの撤回、戦没者通知をしたことに対する損害賠償、A
  原告らの親族(戦没者)の死亡状況説明、遺骨返還、説明や遺骨返還をしない
  ことに対する損害賠償、B徴兵、徴用し、戦地配備、戦闘行為、労働を強制し
  たこと、戦争で死傷したこと、戦犯として処罰されたことに対する損害賠償、
  C徴兵・徴用期間中の未払給与等の支払、Dシベリアに抑留されたことに対す
  る損害賠償、抑留中の賃金の支払、E軍事郵便貯金の返還をしないことに対す
  る損害賠償、及び、これらについての謝罪文交付等であり、請求総額は、約4
  4億円(1人あたり約300万円から約1800万円)である。(@〜Dは国
  に対する、Eは郵政公社に対ナる、謝罪文交付等は両者に対する請求)

第2 理由の要旨

1 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民
  国との間の協定(日韓請求権協定)及び日韓請求権協定第2粂の実施に伴う大
 韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(措置法)について

(1)日韓請求権協定及び措置法によれば、一定の例外を除き、昭和40年6月
  22日に存在していた韓国の国民の財産、権利及び利益であって同日に日本
  国の管轄の下にあるもののうち、日本国又はその国民に対する債権は、同日
  において消滅し、同様の韓国の国民の財産、権利及び利益であって、日本国
  又はその国民が昭和40年6月22日に保管する韓国の国民の物は、同日に
  おいて、保管者である日本国又はその国民に帰属し、韓国の国民の日本国に
  対する請求権であって、昭和40年6月22日以前に生じた事由に基づくも
  のに関しては、いかなる主張もすることができないことになった。

(2)そして、原告らの主張する権利のうち、遺骨返還請求(所有権に基づく請
  求を除く。)及び死亡状況説明請求、徴兵・徴用及び戦地配備、戦闘行為、
  労働に対する損害賠償請求、死亡、傷害に対する損害賠償請求、未払金支払
  請求及び未払金に係る損害賠償請求、軍事郵便貯金に係る損害賠償請求、B
  C級戦犯に係る損害賠償請求並びにシベリア抑留期間中の未払賃金請求及び
  シベリア抑留に係る損害賠償請求は、いずれも昭和40年6月22日以前に
  生じた事由に基づくものであることがその主張上明らかである。
   そうすると、原告らの請求の中に、法律上の根拠に基づき財産的価値を認
  められる実体的請求権が含まれているとしても、当該請求権は、措置法1項
  により消滅している。また、上記各請求のうちに、法律上の根拠に基づき財
  産的価値を認められる実体的請求権以外の請求権があったとすれば、このよ
  うな請求権は日韓請求権協定2条3にいう「請求権」に当たるが、これらは、
  その性質上、裁判上の請求ができるものではない。

(3)以上によれば、前記各請求は、それが、法律上の根拠に基づき財産的価値
  を認められる実体的請求権か否かを判断するまでもなく、理由がない。


2 所有権(物権的請求権)に基づく遺骨返還請求について

   仮に、原告らが、返還を求めている遺骨の所有者であった場合、その所有
  権は、日本国又はその国民が昭和40年6月22日にこれを保管していたと
  は認められないから、日韓請求権協定及び措置法によっても喪失しないが、
  被告国が原告らが返還を求めている遺骨の保管、占有をしていると認めるに
  足りる証拠はないから、原告らが被告国に対して、遺骨の返還を求めること
  はできない。


3 靖国合祀に係る損害賠償請求及び戦没者通知撤回請求について

(1)原告らの請求のうち、靖国合祀に係る損害賠償請求及び戦没者通知撤回請
  求は、それが権利として認められるものであれば、日韓請求権協定の除外事
  由とされる通常の接触の過程において取得された財産、権利及び利益に該当
  する余地があると解される。

(2)しかし、上記請求は、戦没者通知が事実行為に過ぎず、これによって何ら
  かの法的効果が生じるものではなく、原告らが戦没者通知を撤回する旨の表
  明を求めているのであれば、そのような表明をするよう命じることができる
  かどうか自体疑問である。また、原告らが被侵害利益とする民族的人格権、
  宗教的人格権は、これに法的権利性を認めることができるかどうか疑問であ
  る。

(3)これらの問題を措くとしても、戦没者通知は一般的な行政の調査、回答事
  務の範囲内の行為であり、戦没者合祀の実施は、靖国神社がその判断、決定
  によって行っていたと認められるから、被告国が、靖国神社と一体となって、
  戦没者を靖国神社に合祀したものとはいえないし、戦没者通知自体は、戦没
  者の氏名等を回答したものであって、原告らに対し、強制や具体的な不利益
  の付与をするものではないから、戦没者通知が、原告らの民族的人格権、宗
  教的人格権あるいは思想良心の自由を侵害するものとはいえない。戦没者通
  知によって回答した内容は、戦没者の氏名等であって、これがただちに戦没
  者の親族である原告らのプライバシーを侵害するともいえない。

(4)以上によれば、靖国合祀に係る損害賠償請求及び戦没者通知撤回請求は、
  いずれも理由がない,


4 謝罪文の交付及び広告の請求について
   
以上のように、原告らの請求はいずれも理由がないから、被告国及び被告郵
  政公社に対する謝罪文の交付等の請求も理由がないことは明らかである。


第3 結論

   以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がない。