在韓軍人軍属裁判を支援する会ニュースレター

「未来への架け橋」 NO.11 (2002.5.12発行)

 

多くの傍聴でGUNGUN裁判開始! 
靖国への申し入れで生存者合祀取り消しを実現!

 4月26日、待ちに待ったGUNGUN裁判の初公判が80名を超える傍聴参加者で開始されました。韓国からは金景錫原告団代表をはじめ、3名の陳述者が参加。李洛鎮さんは「日本に徴用された軍人は韓国からは後ろ指さされる存在。死んでなお靖国に祀られることは全国民の非難を受けることを示す」と遺族の心境を語りました。
 同じ26日、大阪地裁の小泉靖国参拝違憲アジア訴訟では「靖国応援団」の裁判妨害によって、韓国から原告陳述のため来日した林西云さんらの陳述が取りやめになりました。「靖国応援団」とは他でもなく「つくる会教科書応援団」です。
 有事法制化、歴史認識の歪曲が狙われている今、50年以上の沈黙を破って歴史の事実や日本政府のとった理不尽さを語る「元軍人軍属」が口を開いた意義は大きいのです。GUNGUN裁判は彼らの歴史認識を変える闘いです。
 公判と同時に厚生労働省、靖国神社との交渉を開始し、靖国へは事実上生存者合祀の取り消しを確約させました。
 次回公判は7月3日(水)に決定。注目・ご支援をお願いします。

第2回公判のご案内 7月3日(水)16時 東京地裁710号法廷
第1回口頭弁論報告
「父を、青春を、全てを奪われた」3人の原告が怒りの陳述!

 26日午後2時30分より、第1回口頭弁論が開始されました。東京地裁の103号法廷(大法廷)はほぼ一杯。政府側の答弁書、原告側からの準備書面の提出確認後、来日した原告3人の意見陳述が行なわれました。原告の意見陳述はこの裁判の出発点だ。
 最初に、陳述にたった李洛鎮(イ・ナクジン)さんは、父親をフィリピンで日本敗戦後の9月20日に亡くしました。未だ遺骨はもどっていない。しかし、靖国神社にだけは合祀されているという。「靖国合祀は、我が国ではうしろ指をさされる『日本軍人』の家族として生きなければならない象徴」「人間として遺骨の返還は当然のことではないか」と机をたたき訴えました。
 続いて陳述に立ったのは、金幸珍(キム・ヘンジン)さん。金さんは、1941年に強制的に陸軍の入隊させられ、1942年激戦地のソロモン、ブーゲンビルなどに追いやられた。「日帝の占有のために短い青春を強奪され、謝罪も補償もなく、現在もつらい過去の傷を癒すことが出来ない」「韓国の青少年は日本のために忠誠をつくすことを強要され、その裏で日本は数多くの若い魂と遺骸を南方戦線に捨てるようなことをしたのです」と訴えました。
 最後に陳述にたった李熙子(イ・ヒジャ)さんは、「父を奪われた。友人に調べてもらった結果、1944年6月中国戦線で戦病死したことがわかった」「昨年8月に合祀取消しを求めて靖国神社を訪ねたが、右翼の光景を見て、この神社に父が祀られていることに何よりも胸が痛んだ」「父を、全てを奪われたこの60年の苦しみから提訴に踏み切った」と切々と訴えました。
 3人の原告の訴えは、本提訴の象徴だ。父を、青春を、全てを奪われ、にもかかわらず、日本政府は、謝罪も補償もしないばかりでなく、遺族には一片の通知もせず、靖国神社にだけは合祀通知をした。出発点は引かれました。7月3日の第2回公判へ向けて、原告との結びつきを一層と強め、日本政府を追い詰めていこう!


厚生労働省交渉
「われわれの痛みを知って欲しい!」遺骨、靖国問題で回答を約束

 第1回口頭弁論を前にした26日の午前、厚生労働省交渉を行いました。GUNGUN裁判がかかえる問題のほとんどが厚生労働省に関係する問題のためです。要請相手は、厚生労働省の社会・援護局。最初に事務局より、@遺骨の調査・返還、A靖国神社合祀問題、B未払い賃金問題、C死亡通知の未通知などの問題について、要請内容を説明。約1時間という限られた時間の中で、遺骨、靖国合祀問題が中心となりました。
 遺骨問題では「未返還の遺骨については返還したいと考えている」との表明にとどまるものでした。遺骨調査のためのDNA鑑定の予算1300万円が来年度予算に計上されているが、実施するための検討会費であるという。ここでも旧植民地出身被害者の積極的調査の意向は示されませんでした。
 靖国合祀問題では、「政府は情報提供を行政サービスとして行なってきただけ。プライバシーの問題があり、(靖国への通知について)今は行なっていない」という。しかし、政府は戦後、政教分離の憲法制定以降も靖国神社からの「祭神名票」に記載・回答し、厚生省管理の名簿に「合祀済」の印を押し続けていたのだ。
 最終的に、厚生労働省から@遺骨の返還について、日韓政府の間で何らかの確認があったのか、A遺骨の調査のためのDNA鑑定について、計上された予算の内容について、B靖国神社へ合祀済みという押印は戦後も行なわれていたのか、C日本人生存者の場合の取り扱いについてなどについて、回答を約束させました。
 最後に原告から、「今なお後遺症に苦しむ我々の痛みを知って欲しい。日本政府が人道的に対処すれば提訴の必要はなかった。」(李熙子さん)、「今はもう21世紀。時代の変化に合せて日本政府の姿勢も変えるべきだ。」(李洛鎮さん)と訴えました。
 被害者は高齢であり、裁判と並行して対政府、靖国神社交渉を行なっていく必要があります。交渉は今後に引き継がれました。今後とも対政府交渉を強めていこう!


靖国神社と交渉
生存者合祀の事実上取り消しを勝ち取る!

 公判翌日27日の靖国神社と交渉しました。応対したのは前日大阪でのアジア訴訟に出席していた坂総務課長。こちらは大口弁護士、金景錫さん、李煕子さんら原告団と支援の20数名。全員が社務所の応接室まで入ることができ(押し入り)ました。昨年8月15日に申し入れに来たときには大鳥居に右翼の人垣ができて「反日朝鮮人帰れ」というひどい怒号のもと正面から入れず、裏から代表者が入って数分話をしたことを考えると、今回の対応は意外な丁寧さでした。
 やりとりは以下のとおり。まず韓国における靖国合祀の意味について説明し、合祀を取り下げるよう求めました。(靖は靖国・GはGUNGUN原告及び関係者)
(靖)「返してほしいというのは、具体的に何をですか?」
(G)「魂だ。」「特に生存者はもってのほかだ。2人のうち一人は現在も生きている。二重三重の屈辱だ。」
(靖)「よりしろに宿っている霊魂なので、○○の御霊が宿っているという控えから削除します。名前を消します。」「日本人の生存者でも霊魂は宿っていないわけで、簿冊からは消します。生存しているということは、もともと魂が来ていないということです。」「生存しているということが証明できる住民票やその後亡くなったのであれば除籍簿があれば削除します。」
(G)「このことに関して公的に当事者に謝罪表明していただきたい。」「どうしてこういうことになったのか?」「一番最近の名簿はいつか?」
(靖)「こういう方が合祀候補ですよ、と厚生省から名簿がきます。こちらでは選択する能力がないので、ほぼそのまま合祀します。」「1985年(S60年)。それ以降は戦友会からの通知に基づいて合祀しています。中曽根首相の参拝で切れました。」
(G)「合祀の基準は何か」
(靖)「天皇のために死んだからではなく、国家の命令のために戦争で命を落とした人を合祀するという考え方です。」「靖国神社は厚生省の判断(名簿)に従っているだけです。いつ亡くなったとかこちらでは全然わからないので、厚生省からきた資料に基づくしかないのです。」
と、生存者合祀については、あっさりと事実上の取り下げを認めました。
 前日の厚生労働省との交渉で、国は名簿を「単に行政サービスとして靖国神社に情報提供しただけ」と語っています。また名簿の提供は「1977年頃まで」と厚生省は言っており靖国と食い違います。単に情報提供と開き直る国と、その名簿をそのまま100%合祀してきた靖国神社。今後両者をさらに追及し、全ての合祀取り下げを勝ち取る決意です。


「必ず、勝利する!」

報告集会(東京)

 26日夜、東京は港区で報告集会が持たれました。報告集会は前半は古川事務局長の基調提起で始まり、事務局からの厚生労働省報告、大口弁護士からの第1回口頭弁論報告、そして原告からのアピール、後半は、永村全国ネット代表の中国人強制連行福岡裁判での勝利報告、内海愛子さんからの“グングン裁判の意義”の講演という盛りだくさんの内容でした。大口弁護士からは、この闘いは「日本の司法状況、社会・政治状況を変えていく闘いでもある。日本人の責任の問題として闘っていきたい。」と決意が述べられました。原告団のまとめとして、金景錫さんからは「今日は日本国家の中枢が集まる霞ヶ関で行動を行なった。60年前では考えられないこと。言葉を、名前を、文化財を、食料を奪い、最後には、人をも奪った、人の世にこんなことがあっていいのか。必ず勝利する。」と力強い決意が表明されました。最後に、次回公判へ向けてさらに取り組みを広げることを確認して報告集会は終わりました。

報告集会(大阪)

 大阪での報告集会は「小泉靖国参拝違憲アジア訴訟」との共同開催。まずアジア訴訟の菱木事務局長から前日大阪地裁での「靖国応援団」の裁判妨害で原告陳述できなかった経緯と今後の方針について語られました。(報告別掲)

 その林西云(イム・ソウン)さんの語りがよかった。「父は帰らず、祖母は悲しみのあまり、心の病で亡くなり、母も亡くなり、私は両親のない子となった。16歳で家を出てソウルで働き、学ぶ機会を与えられなかったことが、一生の恨です。小泉の参拝は本当に父のためのものなのか?」識字学校で懸命に学び、一字一字噛みしめるように発言された林さんの思いが参加者の心に響いたと思います。季熙子(イ・ヒジャ)さんからは、「靖国神社の態度が前回と変わってきている。裁判を通して皆さんとの繋がりを深く強くし、日本を変えていきたい。」と決意が語られました。靖国の役割を過小評価しないで、有事立法、教科書問題など、戦争への道を進もうとする動きを止めていかねばと決意を新たにしました。私達自身のためにも、何としてもこの裁判を勝ちましょう!


内海愛子さん講演要旨(4・26東京報告集会で)
「グングン裁判は戦争の全体像を明らかにし歴史認識のために欠かせない!」

 この問題は、まだ明らかになっていないことが多い。韓国・朝鮮の当事者は語れなかった、一方で日本人の当事者は口をつぐんでいる。しかしこの問題は、教科書問題でもふまえなければならない歴史認識の問題。彼らは、東南アジア侵略を解放戦争と言っている。確かに、インドネシアで歓迎されたと言う初期の事実はある。しかし、アジア解放を唱える軍隊のなかに何故、朝鮮、台湾人がいるのか。植民地にしておきながら何故、それがアジア解放と言えるのか。
 中国侵略を開始の後で、不足する兵力を補充するために非常に早い時期に検討が始められている。朝鮮人を日本の皇軍に入れるために、内鮮一体化政策が強力に推し進められた。言葉を奪い、名前を奪いということにつながる。実は、同じようなことが米軍の中のフィリピン兵、英軍の中のグルカ兵やインド兵、日本軍の中のインドネシア兵についても言える。
 アジア太平洋戦争は勿論、侵略戦争なのだが、植民地の争奪戦という帝国主義国家間の戦争という大きな性格をもった戦争だった。この韓国・朝鮮人の軍人軍属問題は、そういう全体像を知る上で絶対に欠かせない問題だ。強制連行問題は朴慶植先生がその記録を書いて大きな問題提起をしてくれた。しかし、日本の侵略の軍隊に徴兵・動員され「協力」させられた人については、韓国の中でも長い間研究がなされなかった。ようやく最近、韓国そして日本の中で研究が始まった段階。だから、252人の原告がいるということは一人一人の言葉を聞き取る中で、実は日本の戦争はどういう戦争であったのかをつかむために絶対に欠かせないこと。是非、事実を聞き取り明らかにし、戦後補償を実現していかなければなりません。
(事務局の責任でまとめました。)


「GUNGUN原告の証言を映像に残すツアー」のご案内

内海愛子さんの話にあるとおりGUNGUN裁判の役割は重大です。一方で「生き証人」である生存者原告(90名)は刻一刻と高齢化しています。そこで法廷で「映像証言」として活用し、また将来映画として編集できるように、原告の証言を映像に残したいと考えています。内海愛子さんとともにビデオカメラと三脚を持って、韓国へわたり、ソウルを拠点として各地へ飛びます。あなたも参加しませんか?
【ツアー行程案】
7月13日(土) 成田・関空発⇒仁川ソウル 通訳ボランティアと合流 打合せ
   14日(日) 原告の住む町へ移動(約5班) 3〜5名の証言を映像に撮影
   15日(月) ソウルで合流(交流会)⇒帰国 (滞在組は残って継続)
   16日(火) 西大門刑務所・安重根記念館等見学 ⇒ 帰国
お問い合わせは、Eメールfuru@gw5.gateway.ne.jp か、090−1135−1488 古川まで


小泉首相靖国参拝違憲アジア訴訟第2回口頭弁論報告(4月26日大阪)
原告意見陳述を認めない裁判所の姿勢に抗議!
                                  アジア訴訟事務局 山内小夜子

 第2回弁論を前に、「靖国神社を被告席から救おう」と「靖国応援団」なるものが結成され、22日に裁判への「補助参加の申立て」がなされました。申し立て人は、戦没者遺族や元軍人の6名。補助参加を画策したのは大阪弁護士会所属の徳永信一弁護士ら。以前彼は大阪HIV訴訟の原告側弁護団の一員だった「人権派」弁護士で、後に袂をわかち、小林よしのりらの「自由主義史観研究会」の雑誌に原稿を寄せたりしているスマートな「新右翼」。靖国を大切に思うのを別に否定しないが、「補助参加」はどう考えても裁判の妨害だ。弁論前日、裁判所から弁護士に「原告らの意見陳述は認めない」という連絡が入る。法廷内で「靖国応援団」側と原告及び支援者との間で「混乱」が予測されるとからだという。弁護士はねばり強い交渉をし、当日26日の法廷でも前日提出した「補助参加に対する異議申立書」にもとづいて再度要請したが、「今回は意見陳述をしない」と決定しました。予定されていた林西云さんと朴実さんの意見陳述は実現しませんでした。林西云さんは、「日本にまで来て、証言ができないなんて・・・」と絶句。その後、記者会見と抗議集会を持ち、抗議文を裁判所に提出しました。「補助参加の申立て」については、原告側から「異議」を提出したので、認めるか認めないかを決める別の裁判となります。弁護士によると、90%以上認められないという決定が出されるだろうという予測です。次回第三回弁論は7月12日(金)13時30分〜202号法廷。林西云さん、朴実さんの意見陳述が予定されています。多数の傍聴支援をお願いします。

「おかしい人」発言名誉毀損訴訟第1回公判(4月10日大阪)
金銀植さん(太平洋戦争被害者補償推進協議会事務局長)意見陳述(要旨)

「日帝統治下、朝鮮総督府は民族精神を抹殺するために、神社参拝を強要し、1940年からは神社参拝拒否抗争者を捕まえて50数名が処刑された。神社は全国的に1,141ヶ所に至った。小泉首相は周辺国の被害者達をさげすました発言に対して明白に公式謝罪しなければならなく、これを再発させないという約束をしなければならない。」

読書案内 憲法を獲得する人びと
          田中伸尚 著(岩波書店 1900円+税)

 本書は「憲法に書き込まれている内容を少しでも実現し、豊かにしていこうとして生きている」12名の人びとの姿を伝えるドキュメント。その中には、各地の小泉靖国参拝違憲訴訟の原告や弁護士で活躍中の5名の方が含まれています。福岡県の航空自衛隊築城基地で反基地に取り組む渡辺ひろ子さん、神主の娘として生まれ即位の礼・大嘗祭違憲住民訴訟の原告になった大村和子さん、戦病死した父の靖国合祀取り下げを求める住職の菅原龍憲さん、思いやり予算違憲訴訟・国籍条項撤廃・外登証返上などを闘う在日中国人二世の徐翠珍さん、軍事費拒否訴訟からアジア靖国訴訟まで数々の訴訟で活躍する弁護士の加島宏さんの5名です。月刊『世界』に1年間連載されたもの。ぜひ一読を!(塚本)


GUNGUNインフォメーション

5月20日(月) 18時 大阪扇町公園 有事法制反対!関西集会
5月24日(金) 18時 東京明治公園 STOP!有事法制5・24大集会
5月25日(土) 14時 渋谷区立恵比寿区民会館 グングン連続講座(東京)
    講師・樋口雄一さん「植民地支配とは何だったのかー朝鮮人徴兵の背景・農村の実態」
     (2回目=6月15日夜を予定)
6月19日(水) おかしい人発言名誉毀損訴訟 14時 大阪地裁
7月 2日(火) 日本製鉄元徴用工裁判 大阪高裁
    3日(水) GUNGUN第2回公判 16時 東京地裁
   12日(金) 小泉靖国参拝違憲アジア訴訟 13時半 大阪地裁
   13日(土)〜15日(月) 証言を映像に残すツアー